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医療機器に使われる様々な金属とその金属特性は?
2023年11月13日今回のコラムは、以前コラムに記載させて頂いた『手術器材に使用するステンレス鋼について』の深堀を行って行きたいと思います。なぜ?と言いますとある現場の責任者の方からステンレスと添付文書に記載されているのに黒くなったり輝きが無くなって来たりするけど・・・また、錆が改善されないステンレスもある?気がすると言うご相談を受けましたので前回より深堀情報をお届けしようと思います。
まず、復習から始めて行きます。
ステンレス鋼は、医療器具や航空機部品など専門分野で使用するものまで、広範囲において用いられている金属の一種で『ステンレスとは』鉄(Fe)を主成分にして、これにクロム(Cr)や
ニッケル(Ni)を含有させた合金です。一般的には、クロムを11%以上含有させた鋼をステンレスと定義させています。
これはクロムが11%以上になると、さびにくさ(耐食性)が飛躍的に向上する性質から来ています。
ステンレスとは、Stainless Steelの略称で、Stainlessは錆にくい、そして
Steelは鋼のことです。すなわち『錆びにくい鋼』ということになり、『錆びない鋼』ではありません。
ステンレス鋼のメリットは、耐食性がある、耐熱性が高い、強度があるなどが挙げられます。腐食性がなぜあるのかと言いますと表面に不動態被膜という、非常に薄い保護被膜を形成する働きを持つため、錆びに強く、いつまでも美しい 状態を維持でき耐食性は、上記で記載しているCrの含有率が高くなるに従い、不動態被膜が強固になり耐食性が良くなります。医療器具に使用されている代表的なステンレス鋼のマルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系の三系統のCr含有率の明細は、以前のコラムに記載していますのでご確認下さい。
https://www.ncc-medical.com/column/443
この腐食性に優れたステンレスが何故錆びたり変色したりするのか?と疑問が出て来ます。
その答えは、不動態化被膜の破壊によって錆が発生します。まず、錆の発生はどの様に発生するかと言うと大気中の酸素や水分と反応して起きる現象で、洗浄を行う行為は大気と水が同時に存在し最も錆びが発生しやすい環境を作っています。また、手術を行う環境も血液・体液も塩素イオンを含むため、鉄鋼に錆を誘発させる環境の災厄な環境下と言えます。
この環境下でステンレスは不動態化被膜があるため錆ないのですが・・・その不動態化被膜が破壊されますと直ぐに錆びて行きます。その、不動態化被膜が破壊される行為を行わないと錆びないのではと考えますが、日々使用していると様々な破壊行為を避ける事は出来ません。
例を挙げると!!
NCC Column LIST
孔食
塩化物イオンの影響で、ステンレス鋼の表面に付着した異物などを起点として局所的に不動態皮膜が破壊され医療器具表面に穴が開き錆が発生
隙間腐食
鉗子のラチェット構造部で、完全乾燥が出来ず腐食が孔食状に進行する現象です。ラチェット構造隙間の内部では、酸素の供給が不十分となり外部との間で酸素濃度に差が生じ不動態化被膜の再形成が出来ず錆が発生
応力腐食割れ(SCC)
医療器具先端に応力がかかり腐食環境下で脆化を起こしてしまうため、割れに至ります。また、この割れを起点とし、不動態皮膜が破壊され、錆びを進行させる
もらい錆①
異種金属間腐食
電位が異なる2つの金属が電解質中で接触すると、両者の間に電池が形成され、電位が低い(卑な)金属の錆が接触していない状態の場合よりも錆が進行する現象
もらい錆②
錆移り腐食
錆びている金属と一緒に洗浄・保管を行うと錆が飛び不動態化被膜が破壊され錆が進行する
新品器材錆
加工過程で発生する様々な原因によって不動態化被膜が不完全な状態にありこの状態は不動態被膜の破壊などを引き起こしやすく錆の発生に繋がります。
では、不動態化被膜の破壊が起きれば錆びるのであきらめて日々錆び取作業を行うしかないのか?と言いますとこの破壊された不動態化被膜を再形成させる事で錆びの発生を抑制する事が可能です。
再形成をどの様にして行くかと言いますと一番安価は、ステンレス自体を空気と反応させるいわゆる放置と言う事なのですが、長い年月が必要です。一番短期間で実施出来るのは溶剤処理だと言えます。
以前のコラムで『ステンレスの不動態膜再形成の重要性』で不動態化処理剤の紹介を行っているので是非ご確認下さい。
https://www.ncc-medical.com/column/400
ステンレスの変色に関しては『医療機器洗浄アドバイザーコラム 第32弾』で紹介しておりますのでご確認下さい。
https://www.ncc-medical.com/column/998