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ヨーロッパにおける内視鏡洗浄の現状
2025年03月06日日本海側の降雪は次第に少なくなり、強い南風(春一番)が吹くこともあります。日中は日差しが暖かく
感じられるものの、朝晩の気温は低いことが多く、昼夜の気温差が大きくなるのも3月の特徴だと
言われます。3月中旬を過ぎる頃になると次第に暖かさが増して、関東より西側の地域では桜が
開花し始めると思います。毎年ニュースやWEB情報でサクラの開花予想がされますが、昔は基準が
バラバラで、ニュース毎で差があったとおもいます。ただ、近年では気候予想技術が上がり開花予想
が当たる様になって来ましたね。
医療業界の洗浄でも、技術が上がって来た技術は?と言うと内視鏡を用いた診断・治療ではない
でしょうか。それに伴い適切な洗浄・消毒の重要性が増しています。特にヨーロッパでは、内視鏡
洗浄に関する厳格な規制が設けられ、国際基準に準拠した手順の確立が求められています。
本稿では、ヨーロッパにおける内視鏡洗浄の現状について解説します。
ヨーロッパでは、内視鏡の洗浄・消毒に関してEN ISO 15883-4(ウォッシャーディスイ
フェクターによる柔軟内視鏡の洗浄・消毒)を基準とし、各国が独自の規制を補完する形
とっています。
EN ISO 15883-4:
柔軟内視鏡の自動洗浄・消毒の要件を定め、特に微生物学的なリスクを低減するための
方法を規定
EN ISO 14937:
低温消毒や滅菌に関するガイドラインを提供
HTM 01-06(イギリス):
医療機関向けの詳細な内視鏡洗浄手順。
DGSV(ドイツ):
内視鏡再処理のトレーニングや標準化された手順の整備を推奨
AFNOR規格(フランス):
内視鏡洗浄に関するISO準拠の評価手法を採用
今回は、特にHTM 01-06(イギリス)のガイドラインを深堀してお伝えしたいと思います。
HTM 01-06(Healthcare Technical Memorandum 01-06)は、イギリスの国民保健サービス
(NHS)が定めた内視鏡の洗浄・消毒・保管に関する技術ガイドラインです。
本書は、英国医療機関における内視鏡再処理の標準手順を確立し、感染リスクの軽減を
目的としています。
HTM 01-06の概要は、内視鏡の洗浄・消毒に関するベストプラクティスを提供し、以下の
点を重視しています。
・ 患者間の交差感染を防ぐための清浄度確保
・ 微生物学的な安全性を保障する
・ 設備・環境要件の明確化
・ スタッフの教育とトレーニングの義務
・ データ記録とトレーサビリティの確立
HTM 01-06での内視鏡洗浄のプロセスのアウトラインを見て見ましょう。
1. 直後処理(ベッドサイド洗浄)
内視鏡を患者から抜去後、処理を実施
酵素洗剤または中性洗剤を使用し、チャンチャンネル内部に洗浄水を通水
※ ブラッシングや拭き取りは禁止
2. 洗浄室へ搬送
専用の容器または、回収袋(専用の回収袋)に入れて搬送
3. 専用システムシンクでリークテスト
洗浄前に必ずリークテスト(漏れ検査)を実施し内視鏡が破損している場合は使用を
中止し、修理・点検に出す。
4. 洗浄・消毒
EN ISO 15883-4準拠のウォッシャーディスインフェクター
(AER:Automatic Endoscope Reprocessor)の使用が義務 付けられており消毒には、
過酢酸(PAA)や過酸化水素(H₂O₂)を使った高水準消毒が推奨されています。
5. 乾燥
内視鏡のチャンネル内部まで完全に乾燥させるため専用の乾燥庫の使用が推奨されます。
HEPAフィルター付きの乾燥キャビネットを使用し乾燥が行われます。
6. 保管
乾燥後の内視鏡は専用の保管キャビネットで保管されHTM 01-06では、保管期間は
最大72時間までと規定されています。
7. 記録・トレサビリティ
洗浄・消毒の全プロセスを電子記録し、追跡可能な状態にすることが義務付けられています。
(各内視鏡に対して、どの患者様に使用されどの装置で洗浄・消毒されたか管理)
記録・トレサビリティの洗浄評価の方法とは
HTM 01-06では、以下の4つの評価方法を用いて洗浄プロセスの適切性を確認します。
・ 目視検査(Visual Inspection)
内視鏡の表面およびチャンネル内の汚れを確認し、目に見える残留物
(血液、粘液、組織片など)がないかチェックします。
評価手順
照明の下で内視鏡を観察し、汚れや損傷がないか確認したのち内視鏡チャンネル
内部は専用の内視鏡カメラや内視鏡用ルーペを使用して検査を実施
判定基準
目視で確認できる汚れが残っている場合は不合格とし、洗浄工程からのやり直ししが必要。
・ 残留有機物試験(Residual Protein:タンパク質残留検査)
目視では検出できない微量の有機物(タンパク質、血液など)が残存していないかを評価する。
評価手順
タンパク質残留検査は、専用の装置・試薬を用いて内視鏡の表面やチャンネル内に残った
タンパク質を検査装置などを使用し化学的に検出します。(インシチュー検査)
判定基準
ガイドライン規定値以上のタンパク質が残存している場合、洗浄が不合格とし、
洗浄工程からのやり直ししが必要
・ チャレンジデバイス(Process Challenge Devices: PCDs)
ウォッシャーディスインフェクター(AER)の洗浄性能を定量的に評価するために実施する。
評価手順
チャレンジデバイス(汚染テストデバイス)に人工的な汚れ
(人工血液、タンパク質汚染物など)を内視鏡または模擬デバイス付着させ
ウォッシャーディスインフェクター(AER)の通常の洗浄プログラムで洗浄を
実施し、チェレンジデバイスの汚染除去率を測定し、基準値を満たしているか確認する。
評価基準
洗浄後に汚染が一定以上残っている場合は、ウォッシャーディスインフェクター(AER)の
洗浄プロセスの再評価が必要となる。
HTM 01-06での洗浄評価の頻度
・ 目視検査(Visual Inspection):毎回(洗浄後の内視鏡ごとに実施)
・ 残留有機物試験(タンパク質残留検査):週1回以上(定期的に実施)
・ チャレンジデバイス(PCD):月1回以上(AERの性能評価として)
HTM 01-06では、科学的根拠に基づいた洗浄評価を義務付け、トレーサビリティやスタッフ教育の
徹底を求めています。日本では、まだまだ内視鏡の洗浄評価は現場に浸透していませんが、
洗浄スタッフが疑問に感じる場面や不安を覚える場面はあるとよく聴きます。NCCでは、HTM01-06に
準拠した内視鏡のタンパク質残留検査を行える装置(Proreveal)をシステムとして展開しています。
興味のある方は、是非お問い合わせください。
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